あれは私が7、8歳の頃だったろうか。
まだ建て替える前の古い家で、穴だらけだった障子はお正月に向けて祖母によって綺麗に張り替えられていた。
廊下を挟んだリビング向かいの和室にはストーブが焚かれ上にはヤカンが置かれていた。
部屋には祖母と母がいた。
母は接客業をしていたので、学校が休みの日に家にいることは少なく
その日もやはり平日だったが、小学校は既に冬休みに入っており
私はとって「母と同じ日に家にいる」という特別な日であった。
しかし、時期は12月末。
祖母と母はお正月の準備で朝から大忙しだった。
当然、母とデパートにお出掛け、なんて1日にはならないことは言われなくても分かっていた。
ストーブが焚かれていた和室では、ついた餅を四角形に切っていた。
餅は何日か前についていたのだろうか、既にカチカチでかなり力を入れなければ切れない。
白い粉は片栗粉だろうか。
餅がくっつかないように粉を付け、箱に並べていく。
母は台所と和室を行ったり来たりしていたので、その度に私も行ったり来たり。
しかしそのうち飽きた私はリビングのこたつに肩まで入り、あれは何という本だったろうか。
表紙が赤かったことと、ネズミが出てくる話だったということ以外は思い出せないが、本の中でもお正月準備をしていた。
そのうち一段落付いたのか、こたつに入ってきた母が続きを読んでくれた。
ストーブの匂いと共に
ぼんやりと私の記憶の片隅に残っている。
そんな30年以上前のお正月の記憶
私がまだお母さんじゃなかった頃の遠い遠い昔の記憶
お正月が近付くと思い出す。
胸のなかがあったかくなる。